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5.根回しがお上手ですね④

作者: 鷹槻れん
last update 最終更新日: 2025-06-04 15:58:35

「その時から花々里(かがり)のことが気になって仕方なくなってね」

 お父さんを亡くした時?

 それって私、物凄く小さい時だよ?

「あのっ、そのときミキ……、ヨリ、ツナは」

「12歳だ」

 わーお。やっぱりものすっごい昔じゃないっ。

「あの、ごめんなさい。……私、覚えてないです……」

 何となく、めちゃくちゃ長いこと片想いをさせてしまった気分になっちゃった。

 この私が、ツヤツヤと美味しそうに誘惑してくる羊羹(ようかん)を、口に入れる手が止まってしまう程度には申し訳なくっ!

「確か花々里はまだ3つかそこらの幼な子だったから。――逆に覚えていたら怖いよね」

 なのにサラリとそう返されて、私の申し訳ない気持ちを返せー!って思ってしまったの。

 それで、自分の割り当ての羊羹の残り――半分くらいは残ってた――を、切り分けもせずブスリッと黒文字に突き刺して一息に頬張ってやったの。

 御神本(みきもと)さんのことなんて羊羹の上品な甘さで消し去ってくれるわっ! ふはははは!!……みたいなノリで。

 腹いせのつもりだったのに、そんな私を見て御神本さんが嬉しそうに笑うの。

 もぉ、何なのよ、調子狂っちゃうでしょ!?

 そればかりか――。

「花々里は本当、なんて愛らしいんだろうね。思えばあの時もそうだった」

 ってうっとりつぶやくとかっ。反則じゃありませんっ!?

 ドキドキして思わずお茶、一気に煽っちゃったじゃないですかっ!

 あーん、羊羹の甘くて幸せな余韻、お茶で流れてっちゃったぁぁぁぁ!!!!!!

 それがショックで、じんわり目尻に涙を浮かべて御神本さんを恨めしげに見つめる。

 そうしてポツンと問いかけた。

「私の何がそんなに気に入ったって言うんですか……」

 考えてみたら、私の名前を呼びかけてきた直後から……だよね?

 御神本さんの優しい餌付け攻撃がはじまったの。

〝初めまして。おや、お腹がすいてるみたいだね?

 じゃあ俺が美味しいもの食べさせてあげよう。

 美味いと思ったならとりあえず結婚しようか?〟

 に近いものを感じてしまったんだけど、ずっと放置してたくせに、いきなり距離削りすぎじゃないですかっ?

 あまりに他が気になりすぎて、私、彼の〝あの時も〟という不自然な付け加えに反応できていなかった。

 後で考えたら、まさにそれこそが御神本さんの私への〝餌付け〟の原点だったみたいなのに。

***

 自分で言うのも何だけど、私、そんな人様から一目惚れしていただけるような恵まれた容姿はしていないと思うの。

 性格だってこの通りガサツで食いしん坊だし、とてもじゃないけど御神本さんクラスのハイスペック男性に好かれる要素は皆無だと思う。

 なのに――。

「第一は顔だな。俺は自分自身が思っているより、ずっと強くキミの見た目が気に入っているらしい」

 え!?

 嘘でしょう!?

 人の好みは十人十色って言うけれど、御神本さんは随分と奇特な目をお持ちのようです。

「あとは……やっぱりその食いっぷりだな。考えてみればあの時もそうだったが、何でも美味そうに食べてくれるし、何を食わせても幸せそうな顔をする。見ていて実に清々しいよ。顔のつくりもさることながら、いまの俺はそっちに強く惹かれているな」

 って……うそ! そこ!? そこなの!?

 だからですかっ? 次々に美味しいもので私を誘惑してくるのはっ!

 でも……。

 ということは……安心して美味しい思いをしてもいいってこと!?

 「わーい!」と心の中で諸手を上げて喜んでから「あ!」と思い至る。

 ダメだっ。

 御神本さんから離れたいなら、餌付けに歓喜して、彼の性癖を満たしたらいけないんだ!

「たっ、食べるの……やめ……」

 ――ておきます。

 そっと、今いただいたばかりの羊羹を御神本さんに差し戻そうとして……艶々と濡れ光った目で私を見てくる?羊羹と見つめ合って?、惜しみがかかる。

 結果、言葉尻が濁って最後まで言えなかったの。

 なのに。

「ん? さすがにお腹一杯になってしまったかな?」

 御神本さんの手がスッと伸びてきて、さっきもらったばかりのお皿を私の前から引き取ろうとして――。

「あっ、待っ……」

 思わず御神本さんの手ごとお皿を引き止めてしまって、何て大胆なことをしてしまったの!とぶわりと顔が熱くなった。

「ごめ、なさっ」

 慌てて手を引っ込めようとしたら、その手の上に御神本さんがもう一方の手を重ねてきて、押さえられてしまう。

「あ、あの……」

 羊羹の載ったお皿を掴んだ御神本さんの右手の上に私の右手が、その私の右手の上に御神本さんの左手が……。

 何この「親亀の背中に子亀を乗せて、子亀の背中に孫亀乗せて、孫亀の背中にひい孫亀乗せて、親亀こけたら、子亀孫亀ひい孫亀こけた」みたいな状態。

 あ、私、左手も乗せないとダメ?

 ん? ん?

 ドキドキしながら御神本さんの手の上に、今や1本のみ取り残されて?仲間外れになってしまった?左手を乗せようとして、「あ、でもこれ乗せたらみんなひっくり返っちゃう!」と思って躊躇する。

 と、御神本さんがクククッと喉を鳴らして笑うの。

「なっ、何ですかっ」

 ムッとして顔を上げて睨んだら、手を絡め合っている関係で思いのほか距離が近くてドキッとした。

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